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no.150『「デザイン」の進行形を考える』

 近年、「デザイン」という言葉の意味は大きく広がっています。かつては製品や建築、グラフィックなど、いわゆる“形あるもの”を対象とした工業デザインを指すことが一般的でした。しかし現在では、組織や地域、さらには社会そのものを対象に、「人々の行動や関係性をどのように設計するか」という文脈で語られることが増えてきました。

 この流れは、経営学や行動経済学の領域とも深く関係しています。たとえば行動経済学では、人々の選択行動を自然に望ましい方向へ導くための環境設計を行う人を「選択アーキテクト(choice architect)」と呼びます。強制ではなく、ちょっとした仕組みや配置、声かけ、流れの工夫によって、人の行動は驚くほど変わります。これはまさに、“人と組織をデザインする”という発想そのものです。

 私は、マネジャーもまた組織をデザインする存在であると考えています。管理職の役割は、単に業務を管理することではありません。会議の進め方、情報共有の仕組み、相談しやすい雰囲気、挑戦を許容する文化など、日々の小さな積み重ねを通して、組織の行動様式を形づくっていくことに本質があります。つまり、マネジャーは「人を動かす」のではなく、「人が動きやすくなる環境を設計する」存在とも言えるのではないでしょうか。

 一方で、現代の組織課題は非常に複雑です。人材育成、世代間ギャップ、多職種連携、働き方改革、心理的安全性――いずれも単純な正解がある問題ではありません。そのため近年のデザイン論では、「正しい答えを出すこと」以上に、「何を本当の課題として設定するか」が重要であると指摘されています。つまり、問題解決以前に、問題発見そのものが重要になっているのです。

 さらに興味深いのは、デザインは決して“デザイナーだけが行うものではない”という考え方です。組織やコミュニティのデザインは、そこに所属する人々自身によって行われる必要があります。なぜなら、組織を完全に外側から客観視することは難しく、多くの場合、デザインを行う人自身もまた、その組織の一員だからです。言い換えれば、私たちは「設計する側」であると同時に、「設計される側」でもあります。

 だからこそ、組織デザインは“ままならない営み”でもあります。理論通りには進まず、意図しない反応も起こる。それでも対話を重ね、試行錯誤しながら少しずつ環境を整えていく。その過程自体が、組織づくりなのだと思います。今回読んだ書籍は、そうした複雑で曖昧な「デザイン」という概念について、現時点での理論と実践が丁寧に詰め込まれた一冊でした。管理職として組織に関わる人にとっては、いろいろと示唆のある一冊だと思います。

2026年6月2日

M.Y

 

「デザイン理論 問題解決と未来構想の先へ」

水野大二郎・水内智英・山崎泰寛 編、フィルムアート社(2026) 

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