私は現在、通所リハビリテーションという介護保険分野の事業所で勤務しております。そこでは、看護師、介護士、理学療法士が中心となり、医師や介護支援専門員、ご家族などと協力しながら日々業務にあたっています。
業務を遂行する上で、事業所内外の連携は極めて重要な要素となります。しかし、「丁寧に伝えたはずなのに、なぜか指示通りに動いてくれない」「申し送りの内容を忘れてしまう」といった悩みは、組織運営を担う中堅層であれば、一度は誰しもが抱えたことがあるのではないでしょうか。
こうした問題に直面すると、私たちはつい、相手の「やる気」や「性格」に原因を求めてしまいがちです。
そんな折、心理学博士である榎本博明氏の著書『「指示通り」ができない人たち』を手に取りました。この本では「指示通りに動けない」問題を、認知能力、メタ認知能力、非認知能力と、指導の工夫で対処可能な3つの能力のギャップとして分類しています 。
私たちは、指示を出せば相手は「理屈通りに理解し、記憶し、実行するもの」と無意識に前提にしています。しかし、指示が通らない真の原因は、受け手の問題である以前に、受け手が情報を正確に理解できていない可能性を、送り手が意識できていないのかもしれません。
そこで、この「認知能力のギャップ」に着目し、一つの実験を行ってみました。
認知能力の一つである読解力をテストするため、日本速読解力協会が公開している無料ウェブサイト「読解問題よみとくん」を使用し、2択問題を、3名の職員(看護師、理学療法士、介護士)に試してもらいました。その結果、平均正答率は約78%でした。
この数字は、優秀な専門職である彼らでさえ、文章を読むというシンプルな行為において2割以上の情報を取りこぼしたり、誤解したりする可能性があることを示唆しています。
私たちは、この残りの22%のミスに注目すべきでしょう。
この認知の「隙間」こそが、日常業務における「指示の読み間違え」や「情報共有の抜け」となり、結果として連携の破綻や事故のリスクを生む原因となり得るからです。大事なのは「誰が間違えたか」という個人攻撃ではなく、「優秀なチームであっても、コミュニケーションには必ず認知のギャップや抜け落ちが生じる」という事実を、客観的なデータとして受け止めることです。それこそが、連携の壁を乗り越え、安全で質の高いサービスを実現するための第一歩となるでしょう。
2025年12月1日
N.T
<参考>
榎本博明:『「指示通り」ができない人たち』日経BP 日本経済新聞出版
読解問題よみとくん:https://www.sokunousokudoku.net/yomitokun/
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