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no.92「マインドフルネスの中にある「compassion(コンパッション)」とは?」

リーダー研修などでよく耳にするマインドフルネスですが、患者さん相手だけでなく上司や同僚、部下などを相手にしながらマインドフルネスを実践するのは本当に難しいと感じています。またよくマインドフルネスを高めるために「瞑想」が効果的とも言われていますが、実際に瞑想がその効果を高めてくれるのか懐疑的な自分がいました。そもそもマインドフルネスとはどんな精神状況なのか、何がマインドフルネスを高めてくれるのか、マインドフルネスがリーダーの何に役立つのかを気にしていたら、たまたま本屋で気になった一冊を見つけました。

 

 『Compassion(コンパッション)―状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力-』(著者:ジョアン・ハリファックス)

 

コンパッションとは、「人が生まれつき持つ「自分や相手を深く理解し、役に立ちたい」という純粋な思い。自分自身や相手と「共にいる」力のこと。」を指し、育むことで、対人調整力、意思決定の質、モチベーションが向上すると言われています。スタンフォード大学神経外科医のジェームス・ドゥティ博士は、「コンパッションと明晰な認識力は、マインドフルネスの両翼であり、マインドフルネスにおいてはどちらも欠かせない」と言っています。

私自身が理学療法士を目指した理由は、自身が高校生の頃リハビリテーションを体験した中で「自分のように苦しむ人を助けたい」という想いでした。まさにコンパッションが昔から私の中にもあったんだと気づかされました。そして著書にはさらにコンパッションを成り立たせる資質やコンパッションの実践方法などが書かれていました。

 

そもそもコンパッションは5つの「エッジ・ステート」と呼ばれる資質があるとされております。この5つの資質は高い状況にあるとコンパッションが発揮されますが、質の低下をもたらすと崖から滑り落ちるように自身にも他者にも害になるとされているため、「エッジ()」と表現されています。

5つの「エッジ・ステート」を以下に挙げます。

 

1.利他性:本能的に無私の状態で他者のために役立とうとすること

2.共感:他者の感情を感じ取る力

3.誠実:道徳的指針を持ち、それに一致した言動をとること

4.敬意:命あるものやものごとを尊重すること

5.関与:しっかりと取り組むが、必要に応じて手放すこと

 

 

どの「エッジ・ステート」も医療従事者としても、リーダーとしても欠かせない資質であると感じます。しかし、これらを当たり前のように振る舞うことや、常に高い状況に保つことは難しいとも思います。なぜ難しいのかというと、自分が正しいと思っている行動や発言が、実は崖から滑り落ちていることに気付いていないこともあるからです。

 

5つの「エッジ・ステート」の負の側面を挙げますと、

1. 利他性 病的な利他性:承認欲求にとらわれたり、相手を依存させてしまったりする状態

2. 共感 共感疲労:相手の感情と一体化しすぎて自分も傷つく状態

3. 誠実 道徳的痛み:正義感に反する行為に関わったり、目にしたときに生じる苦しみ

4. 敬意 軽蔑:自身の価値観と異なる相手を否定し、貶めること

5. 関与 燃え尽き:過剰な負荷や無力感にともなう、疲弊と意欲喪失

 

と言われています。

医療従事者として、あるいはリーダーとして、自身が正しいと思っていることを相手に強要してしまっていること、自身がいないと相手を何もできない状態にさせてしまっていたこと、相手を思いすぎて自身も傷つき疲れてしまうこと、自身と違う考えの相手を受け入れられず否定してしまっていること・・・。患者さん・上司・同僚・部下などに抑えているつもりでもいつの間にか行ってしまっていることは誰にでもあるのではないでしょうか。

 

ただそういった行動や発言をしないでコンパッションを実践する方法を、頭文字をとって「GRACE」として紹介されていました。

 

GGathering attention 注意を集中する

RRecalling intention 動機と意図を想い出す

AAttune to self and then other 自己と他者の思考、感情、感覚に気づきを向け、合わせる

CConsidering what will serve なにが役に立つかを考える

EEngaging and Ending 関与を持って行動し、完了させる

 

 

言葉では簡単で、実践するには容易ではないと思います。また著書の中で一番印象的だったのが、「いくら同じような体験や価値観を持っていても他者と自身は同じではない。だから他者の全てを理解することは不可能である。」と言う事でした。

 

瞑想も大切ですが、医療従事者として、リーダーとして、特に部下や後輩に対してさも相手の全て知っているような振る舞いをしてしまいがちな私ですが、自身と他者は似て非なる存在と言う事を理解して他者を尊重していくことが、マインドフルネスあるいはコンパッションを高め、正しい選択を行えるのではと感じました。

 

No.91「プロが心得ているマインドセットとは?」と合わせて読んでいただき、自身のマインドのあり方を考えるきっかけになれると幸いです。

2021412

 

TT

<参考・引用文献>

 

Compassion(コンパッション)―状況にのみこまれずに、本当に必要な変容を導く、「共にいる」力-』 著者:ジョアン・ハリファックス 英治出版 (2020/4/6)

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