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no.12「インフラとしての医療」

【インフラとしての医療】

 

 インフラとはインフラストラクチャー(infrastructure)の略で、「産業や生活の基盤として整備される施設」を指す言葉です.インフラといえば、道路、鉄道、上下水道、ダム、通信施設など「生活の基盤となる組織」などを思い浮かべる人が多いと思います.

 医療というサービス財については、私的財か公共財か、という議論がたびたび湧きあがります.医療サービスを提供側である医療機関と、患者ひとりとの間の経済取引として考えた場合、医療は衣料品や宝飾品などの同じような私的財として考えることができます.この場合、医療サービスの資源配分は,「市場による分配にゆだねること」ということで需給バランスをとれるはずである、という考えることができます.

 一方、医療サービス産業は、さまざまな経済学的特性を有しています.医療における不確実性、情報の非対称性、不完全競争など、市場による資源の分配機能に頼るだけでは、いわゆる「市場の失敗」を招いてしまう要素が多く存在しているのです.そのため、世界中の各国で、文化的背景を加味した制度設計が行われているのです.

 日本の医療制度においては、国民皆保険制度により、全ての人に医療を受ける権利が、フリーアクセスという付加価値もついた状態で保障されています.いわば、「国民がいつでもどこでも必要なときに医療サービスへアクセスできる状態を提供するインフラ(森,2013p27より引用)」であるのです.そして、このような「公共財としての医療」が、日本国民の健康達成度を世界でもトップクラスに押し上げていることも、また明白なことであると言えるでしょう.

 この提供体制側に目を向けると、公共財としての医療サービスの担い手である医療機関のうち、約80%は、民間で運営されており、早々に民営化が進んでいた産業、とも考えられます.民営化の大きな目的は、公共施設運営の効率化にありますが、実際のところは医療費を含む社会保障費の増大の問題が唱えられるまで、公共施設である医療機関は、護送船団方式による横並びの運営であった、と言わざる負えないところも否定できません.それが、社会情勢の変化により、医療機関の運営にも変化が求められているのです.

 医療機関の運営は、単純な金銭的な利益ではなく、やはり患者さんひとりひとりの健康状態を改善することに主眼が置かれるべきであると考えます.医療は、国民のインフラ、という意識を忘れずに、日々の臨床に取り組みたいものです.

2014.8.4 Y.M

 

■森宏一郎著、人にやさしい医療の経済学、信山社、2013