お問い合わせ

コメディカル組織運営研究会

事務局

e-mail:

co.medical5@gmail.com

no.123「理論と実践を回すためにまず必要なこと」            -自分の考えを「解像度を高く」言語化できていますか-

経営学に限ったことではありませんが、どのような分野でも教科書で「公式」を学んだだけでは、リアルワールドでそれを使いこなすことはできません.医療においても、私たちは養成校で教科書を用いて「医学」や「理学療法・作業療法・言語聴覚療法」を学ぶわけですが、それだけで現場での診療を行うことは難しく、その学問的な枠組みを実際の症例や利用者さんに落とし込んで評価を行い、阻害要因(問題点)を探たうえで考察し(統合と解釈)、それに適した最善の解決策(機能練習やさまざまな環境設定)を立案、実施して経験を積み、その精度を上げていく作業を繰り返して成長しています.

 

 これは、マネジャーとして行う組織の運営でも同様です.リーダーシップ、モチベーション、組織論など、書籍や講習会などで得たさまざまな経営理論、知識や情報は、「それぞれの現場に適した解釈や方法論に落とし込む」ことで阻害要因(ボトルネック)を特定し、最善の解決策を考えて実行し、思考や実践方法の精度を上げる経験を積むことで、マネジャーとしての成長が促されます.診療でも組織運営でも、逆説的に言えば、「実践を伴わない理論は、理論以下の結果しか得られない」ともいえるのです.

 

理論に基づいて何かを実践する場合、何はともあれ、まずは自分の問題意識を「言語化」する必要があります.このような研究会をしていると、組織運営における悩みなどについてアドバイスを求められる機会も増えきます.そのような時、相手の話の内容が明瞭で、状況が手に取るように理解できる場合もあれば、説明の内容が全体的にふわっとしているために詳細がわからず、こちらから質問することで理解に至る場合もあります.個人的には、私自身もそうですが、説明が曖昧にしか行えない時は、まだ自分の中で理解が進んでおらず、明瞭な考察が得られていない状態なのだと思います.

 

 馬田隆明著「解像度を上げる -曖昧な思考を明瞭にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法-」(英治出版株式会社、2022)では、説明の内容が曖昧である、論点がはっきりしない、論理が飛躍している、具体的な例が全く出てこない、などを「解像度が低い状態」とし、逆に、話が明確かつ簡潔で具体的である、多くの事例を知っている、さまざまな可能性を考慮している、これからやることの布石が明確である、などを「解像度が高い状態」としています.また、解像度が低いままでビジネスをするのは、霧の中で矢を射るようなものであるとも述べています.理論と実践の両輪を回す際の「言語化」においても、この「解像度を上げる」という概念はとても大切なことだと思います.

 

 この書籍の中では、解像度を構成する要素として、原因や要因、方法を細かく具体的に掘り下げることのできる「深さ」、考慮する原因や要因、アプローチの多様性を確保する「広さ」、「深さ」や「広さ」の視点で見えてきた要素を意味のある形で分け、要素間の関係性やそれぞれの相対的な重要性を把握する「構造」、そして経時的変化や因果関係、物事のプロセスや流れをとらえる「時間」、という4つの視点が紹介されています.また、自分の解像度を上げるための、それぞれの視点における取組の内容も書かれています.

 

 そして、解像度を上げるため何よりも大切なのは、「行動すること」「粘り強く取り組むこと」「型を意識すること」などの基本姿勢であるとも述べています.まずは行動してみなければ変化は望めず、最初は多くの時間を費やすかもしれませんが、何度も行動を繰り返すうちに処理速度も上がります.また、最初はベストプラクティスを学び、これまでに実績がある「型」を意識することで、最適なアイディアや方法に効率的に辿りつく確率は高くなります.

 

 これまで、自分の思考の「明瞭度」を「解像度」として捉えたことはなかったのですが、理論と実践の両輪を回すためにはとても重要かつ必須な考え方であり、本書を通じて多くの示唆を得られました.ぜひ、ご一読されることをお勧めします.

 2024年2月7日

M.Y

馬田隆明著

「解像度を上げる-曖昧な思考を明瞭にする「深さ・広さ・行動・時間」の4視点と行動法」 

 英治出版株式会社、2022

コメント: 0

皆様からのコメントをお待ちしています。

質問などにも一部お答えさせて頂きます。