諸事情で今年度よりとある法人へ転職することになり、現在は法人内の特別養護老人ホームで機能訓練指導員として働いています。
そこの法人は国際部を設けており、東南アジア(中国・台湾・韓国・インドネシアなど)を中心に訪日した介護士・看護師と一緒に働いており、私としては外国籍のスタッフと働くことが初めての経験でした。
そんな中、当施設にある身体拘束・虐待予防委員会より依頼を受け、虐待における研修会をインドネシア人スタッフ1名と私の2人で講師を行うことになりました。伝えたい内容がインドネシア人スタッフの講師に全て伝わらないんじゃないか、また研修を受ける他の外国籍スタッフに伝わらないんじゃないか、と不安と先入観を感じる中2人で話し合いを進めることになりました。
研修内容は介護士の虐待・不適切ケアを防ぐことに重きを置いた事例検討となり、普段働いていて気になることを講師をするインドネシア人スタッフへ聞きながら進めた結果、『〇〇な風土を改善するには』という内容を盛り込んだテーマにしました。するとインドネシア人スタッフから「風土って何ですか?」と質問されたため、「簡単に言うと「雰囲気」のようなことだと思います。」と伝えると、「「雰囲気」ならわかります。」と言われ、ニュアンスは多少伝わったかなと感じました。しかし、今回伝えたかった「風土」とニュアンスだけで伝えた「雰囲気」は厳密には違うものです。コトバンクで調べて比べると、【風土:人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境。】【雰囲気:その場やそこにいる人たちが自然に作り出している気分。また、ある人が周囲に感じさせる特別な気分。ムード。】とあり、「風土」の持つ根深い部分や、「雰囲気」の持つ人の気分や感覚で変わりやすい部分など似て非なることは伝わってはいないのでは?とも感じました。
「風土」という言葉以外にも深い意味が伝わっているかわからないが、なんとなくわかりやすく訳しながら伝えていったやり取りを幾度か続けるうちに、ふと感じたことがありました。
相手の日本語理解度にもよりますが、言語の違う相手に理解してもらう際はもしかしたら真の目的や意味を伝えるのはすぐには必要ないのかもしれない、簡単な意味から理解をしてもらい体験した中で深い意味を知ってもらえる方が伝わるのかもしれない、と思うようになりました。
話は研修後のことになりますが、今回のやり取りを介した中で、多文化共生についてもっと理解を深めようと思い、『中学生が多文化共生について本気で考えてみた(著者:山崎寛己)』という本を手に取ってみました。
著者は中学校の教員をされており、本の内容は著者が仕事や会話をしている中で耳にする「〇〇人なのにすごいね。」「日本人は〇〇じゃなきゃ。」などの言葉にモヤモヤしたものがあり、それが「マイクロアグレッション(自覚なき差別)」と知り、ヘイトスピーチ(差別発言)やジェノサイド(組織的な大量虐殺行為)の下支えに繋がることを学び、多国籍の方々を招いた道徳の授業を介して生徒に多文化共生について考えるきっかけを作り、最終的に生徒が国際理解プレゼンテーションコンテストで発表するまでのプロセスをまとめた本となっていました。
「マイクロアグレッション」とは、悪意なく日常の些細な会話や態度で特定の属性(人種、ジェンダー、性的指向、障害など)を持つ人を無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)により傷つける言動であり、上記にあった「〇〇人なのにすごいね。」「日本人は〇〇じゃなきゃ。」などの、普段日常的に言ってしまいそうな内容がそれに該当するとのことでした。そしてそれはマジョリティ(多数派)の持つ特権のようなもので、マイノリティ(少数派)に対して無意識に行っている差別・否定のため、マイノリティ側は差別・否定と感じるがマジョリティ側は多数のため「それが普通」と思ってしまい差別・否定をしているつもりはなく無自覚のままが多い構造となっているとのことでした。
私自身「マイクロアグレッション」という言葉と意味を初めて知り、私自身が無意識のうちにあった多国籍スタッフに対する「日本語がうまく理解できないのでは」という不安や先入観が「マイクロアグレッション」だったんだなと痛感させられました。
研修に関して話を戻しますと、資料では「フリガナが欲しい」などアドバイスを受けながら作成し、本番ではインドネシア人スタッフが基本すべての文章を読み進め、質疑に関しては私が答える役割分担をし、無事に終えることが出来ました。その後の研修報告書に目を通すと、受講した外国籍スタッフからは「理解できた」との意見を多数受けることが出来ました。
研修内容が伝わった嬉しさもさることながら、多国籍スタッフとも積極的に意見交換をしていこうと思うきっかけも作ることが出来ました。
そして一人一人が個性を持っていることを意識して、「マイクロアグレッション」にならない接し方をしていこうと感じました。
2026.3.9
T.T
[参考図書]
中学生が多文化共生について本気で考えてみた 著者:山崎寛己(新潟県新潟市立中学校教諭) 監修者:釜田聡(上智教育大学大学院教育研究科特任教授) 発行所:株式会社東洋館出版社
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