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no.141「多様性」と向きあって「より正しい」ことを作り上げる

「みんな違ってみんないい」のか?―相対主義と普遍主義の問題―

(山口裕之著、ちくまプリマー新書、2022年)

 

私がこの本を手に取ったきっかけは、某大学教授がおすすめの本として紹介していたことです。加えて、日常の中で「多様性」という言葉をさまざまな場で見聞きする一方で、その扱いにくさや疑問を感じていたことも背景にあります。まさに「みんな違ってみんないいのか?」という問いが、自分の中でずっとくすぶっていたのだと思います。

 

「人それぞれはもうやめよう。そのときは踏みとどまり、相手のことを理解し、自分のことを理解してもらおうとする努力を放棄しないこと。」

 

山口裕之著『みんな違ってみんないいのか?』は、多様性と正しさの意味を哲学的に問い直す一冊です。本書によれば、「正しさは人それぞれ」とする相対主義と、「真実は一つ」とする普遍主義の対立を通して、個人の自由と共通基準の両立の難しさが示されます。相対主義は多様性を尊重する一方、意思決定の混乱や組織のばらつきにつながる危険もあります。

 

本書は、「正しさは関わる人々の合意によって作られる」と強調します。科学や道徳の分野でも、個人の感覚だけで正しさを決めるのではなく、検証や合意を通じて共通理解を作ります。

 

リハビリテーション部門に置き換えれば、スタッフの経験や価値観は多様であり、それを活かすことは組織の創造性や柔軟性につながります。しかし、患者の安全や介入の一貫性を守るためには、共通の業務基準や評価方法を共有することが欠かせません。役割分担や意思決定プロセスの透明化を通じて、多様性を尊重しつつ、部門としての方向性や質を維持する。この両立こそが、組織運営における「より正しい正しさ」の実践です。

 

対話を続けて「より正しい正しさ」を作り上げていくというのはとてもカロリーの必要とする作業です。しかし、本書は「多様性」という言葉を隠れ蓑にせず、自分を理解してもらう努力を続けること、相手を理解するための努力を続けることの重要性を感じさせてくれる一冊だと思いました。タイトルを読むと多様性を否定しているようにも感じさせますが、本書は多様性を決して否定しているわけではありませんでした。本書を読み、自分の中で燻っていた「多様性」という言葉への不安を少し和らげてくれたように感じます。「多様性」という言葉に悩まされている方がいらっしゃいましたら、ぜひ本書を手に取ってみてください。

2025年9月2日

Y.K

【紹介書籍】

 

山口裕之著:「みんな違ってみんないい」のか?―相対主義と普遍主義の問題―,ちくまプリマー新書,2022

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