コメディカル組織運営研究会
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仕事をする際の満足度は大切だ、と言われて反対する人は少ないだろう。しかし、満足度が高いと「自分はこのままでいい」と職員が現状維持を望む状況になる可能性がないだろうか?職場がより高いレベルの仕事(往々にして努力を必要とし、「大変だ」と感じる業務)を求めた時、満足度を犠牲にして良いのだろうか?満足度のような感情的な部分を意識するのは成果を上げるために必要なのだろうか?
そんな疑問を持ったとき、入山章栄先生の世界標準の経営理論1)で感情の理論について述べられているページに目が留まった。
入山先生によれば、感情のマネジメントはリーダー・経営者に欠かせない資質となりうる。とのことで、経営学で取り扱う感情には3つの種類があるそうだ。
①分離感情:喜怒哀楽など一般的に感情と呼ばれるものの多くは分離感情と呼ばれる
②帰属感情:ポジティブ感情(positive affect:PA)とネガティブ感情(negative affect:NA)
に大別される
③ムード:なんとなくそこに漂っている感情でチームや職場に漂う
この中で、②の帰属感情が私の抱いた疑問を説明してくれた。まず、仕事でネガティブな出来事が人の感情に与える効果はポジティブな出来事が与える効果より約5倍も強い2)という心理実験の結果があるそうだ。ということは、NAを惹起するのは影響が大きいので、管理者としてかなり気を遣わなくてはいけないだろう。しかしNAが不要かというと、そうではないようだ。PAが組織にプラス効果を与えるという研究結果が多く得られているのは事実のようだが、NAが組織に重要な役割を果たすという研究成果も少なくないそうだ。
PAとNAと、満足度の関わりは、テキサスA&M大学のジェニファー・ジョージが2007年にAMJに発表した論文レビュー3)を参考に入山先生がまとめた6つの法則で説明できそうだ。
法則1:ポジティブ感情は仕事への満足度を高めやすい
法則2:ポジティブ感情はモチベーションを高めやすい
法則3:ポジティブ感情は、他者に協力的な態度(attitude)をとることを促す
法則4:ネガティブ感情は、満足度を下げるのでサーチを促す
法則5:ポジティブ感情は知の探索を促す
法則6:ネガティブ感情は知の深化を促す
私は法則4に目が留まったわけで、その説明の概略は以下だ。
人・組織は、絶えずサーチをすることで認知を広げ、外部の新たな知見を取り込むことが成長に欠かせない。他方、「満足」してしまうと、「自分の認知している世界は正しい」と考えるので、サーチが停滞しがちになる。法則1によれば、「組織が満足して気が緩んでしまう」状況をもたらしかねない。一方、例えばそこでリーダーがネガティブな感情を組織にもたらせば、「自分が今見ている認知の範囲は狭いのかもしれない」と部下に気づかせる契機となりうる。
なるほど・・・と思い、2024年度は平時のポジディブ感情を向上させる行動をしつつ、緩みを感じたらネガティブ感情で(使う時は慎重に)部下の気づきを促せるように努力していこうと思う。
おまけ:PAが高い人とNAが高い人では同じ事柄を経験しても反応が違う。例えばジュースをこぼして服が汚れた場合、私はNAが高いので落ち込むが、妻はPAが高いので笑い飛ばすだろう。私から見れば妻はお気軽な人だが、それに救われる時があるのも事実だ。
2024年4月2日
H.M
<参考・引用文献>
1)入山章栄:世界標準の経営理論,ダイヤモンド社2019
2)Miner, A.G.et al. , 2005.”Experience Sampling Mood and Its Correlates at Work.” Journal of Occupational and Organizational Psychology, Vol.78,pp.171-193.
3)George, J.M. & Zhou,.J.2007.”Dual Tuning in a Supportive Context: Joint Contributions of Positive Mood, Negative Mood, and Supervisory Behaviors to Employee Creativity,” Academy of Management Journal, Vol.50,pp.605-622
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